境界について。
この住宅の敷地の西側には細い私道が通っている。どういう訳か判らなかったのだけれど、奥から続く3mほどの道が、この敷地に面した箇所だけ70cmほどになってしまい、そのまま南側の道路に繋がっている。通行量の意外に多い、この道に対してプライバシーを守るために、たとえば敷地いっぱいに塀でもつくって住宅を建てると、この道は確実に使い勝手が悪くなるだろうし、住宅地としても、なんだかみすぼらしくなってしまうような気がした。そこでまず、この細い私道を奥から続く立派な道路に仕立ててみた。その上に覆い被さるように住宅を建てると、まるで道路に越境しているような不思議な建ち方になり、ガラスで囲った玄関に置かれた下駄箱は、近所の人たちによってバス停に勝手に置かれた椅子たちのように公私の境を越えてしまっているように見えた。そこで、その敷地と道路のどちらにも属するような境界のあり方について考え続けることにした。まず隣地からブロック塀を伸ばしてきて、室内を横切って南まで伸ばし、そのブロック塀に面して敷地の高低差を利用して納戸を収めた。その上を階段の踊り場にして、そこを二階の床面を机に使える高さに揃えると床と机、一階と二階、内部と外部の境界のような場所になった。持ち上げられたヴォリュームの中はすべてラワン合板で仕上げ、さまざまな素材や物に囲まれた一階と対照的な場所とした。それは境界を越えてなだれ込むものたちを制御しつつ、それぞれが等価に接することが出来る場所をつくる試みだったのかもしれない。
無名の知性につながること
クイーンズランダーという住宅の形式がある。オーストラリア、クイーンズランド州に特有の、ベランダのついた木造高床式住宅の形式だ。日本でも研究されている方々がおられる中、僕は特に詳しい訳ではないのだけれど、平屋の住宅がリフトアップされて2階建てにされる途中の写真を見つけて気になっていた。その後、不思議な縁で現地のオーストラリア人から住宅設計の依頼を受け、2013年6月に敷地を見に現地を訪れたのだが、その街並みに驚いた。私が観察したクイーンズランダーの多くは四周に庇を出すために寄棟となっており、屋根や外壁が金属波板で仕上げられ、熱を反射するために白や銀に塗られている。寄棟は排熱が難しいこともあり、屋根には排熱用のベンチレーターが設置され、もち上げられたヴォリュームの下にさまざまなアクティビティが挿入されている。
それはまさに当時工事中だったこの住宅と同じ理路で、実際とてもよく似ているように感じた。私はクイーンズランダーを参考に設計した訳ではないのだけれど、建築を設計していると時代や地域の違いを越え、似たような問題を見つけた先達に出会い、無名の知恵たちに励まされるような気分になることがある。それはこの連綿と続く建築の歴史、無名の知性の集積に触れるような、素晴らしい瞬間
だと思う。
Separate order
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タト