これまでとこれからのあいだで
くすんだコンクリート壁とその上に載る黒い家型。半透明な片流れの屋根。白くて背の高いフラットな屋根と、その下の銀色の箱。てんでばらばらの素材や色と屋根形状のヴォリュームが組み合わされて、この住宅はかたちづくられている。敷地は、生駒山中腹の住宅地で西に向かって傾斜し、眼前に大阪平野の市街地への眺望が広がっている。1930年頃に開発された、80年を超える歴史をもつ住宅地は、古くからあるものと順次取り替えられてきたものがモザイク状に存在し、それぞれの経てきた異なる時間が混在するさまは、とても好ましく思えた。敷地は、道路から3.5mほど高く、どうしても大きくなりがちで、周辺と上手い関係を見つけ出すのは困難だったが、周辺のもつ質に参加するのに相応しい建ち方を探しながら、徐々に場所をつくっていくような感覚で設計を進めた。まず、この住宅地に散在する古くからの石積み壁やコンクリートブロック壁の時間軸につながるような小割りのラワン型枠でくすんだ質感のコンクリート壁をつくり、その上に近隣の屋根形状に倣った黒い家型の構造体を載せた。そのうえで、内部を改装するように居場所をつくり出し、コンクリート壁と背後の崖面との間に半透明の片流れの屋根と木製建具でキッチンやバスルームなどの生活を支える場所を設えた。
道路側には、あたらしい生活や車などにつながるような現代的な、薄いフラットルーフを掛け、その下に進行中の現場のような安全鋼板でできた箱を置いた。その箱とフラットな屋根の間には森山茜がデザインしたカーテンを巡らせて子供部屋とした。結果として、敷地内には、住宅地の「これまで」と「これから」それぞれにつながるような場所がつくり出された。「コンクリート壁」と「黒い家型」の間や、「コンクリート壁」と「背後の擁壁」、「白いフラットルーフ」と「安全鋼板の箱」のように、異なる時間軸につながるような部分の間に人の居場所が設けられている。
このような住宅のあり方から、再び住宅地全体を見直してみると、さまざまな時間軸をもった住宅地のすべての要素やその間に生まれたスペースが、より豊かに見出されるのではないかと考えている。
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タト