「建築が環境との関わり方を決めすぎないあり方をさがして」
眺望のよい場所に建つ建築のあり方が気になっている。眺望側だけに目一杯開き、環境との関わり方を固定してしまっているようなあり方だ。眺望を愉しみつつも、支配されない方法はないだろうか。
六甲山の中腹に古くから広がる住宅地の端に、この住宅は建っている。住人は男性ひとりで、友人たちと集まれるガラス張りの土間を持っている。敷地は42条2項道路であるとは、にわかに信じがたい階段の突き当たりの花崗岩による擁壁の上にある。背後には10m以上あるコンクリートの擁壁がそびえ立ち、眼前には神戸市街から遥か紀州半島、和歌山の山並みまで見渡すことができる瀬戸内海の光景が広がっている。
広い敷地ではあったが急峻な地勢のため、重機の搬入が難しく、杭の施工はかなわなかった。手掘りでの基礎工事を考えて古い擁壁や土盛りから十分な距離を取ると、残されたのは3.5×13.5mの平面だった。周囲からの視線があまり気にならない敷地だったこともあり、下からの視線が届かない1階は風景を最大に取り込めるように全周をガラス張りとした。そこにはキッチンと来客用のトイレが置かれ、いわゆるLDKのような機能を担いつつ、そこで友人と音楽制作をしたり、来客をもてなしたり、自転車をいじったりするなど、セミパブリックな多様な使い方が想定されている。プライバシーが必要なベッドルーム、水回りと収納はまとめて2階に配し、高度斜線制限をかわしつつ、この古くからの街並みに参加するために家型として高く持ち上げた。もち上げられた2階は通風も考えて均等に開口部を空けている。
1階土間には深夜電力利用の基礎蓄熱型床暖房を配し、2階にも補助的に遠赤外線フィルム床暖房を設置している。日射による土間への蓄熱も相まって、この冬は快適に過ごせているようだ。夏期の日射はバルコニーや軒によって遮り、六甲山からの涼風による室内の熱の排出を期待している。
構造はクライアントの要望により鉄骨造を選択したが、人力のみでの施工となるため、100×100の小径H綱による鉄骨造とし、現場への可搬性を考えて各部材は100kg前後としている。2階床面が階段により大きく切り取られているため、外周を巡る片持ちバルコニーに厚さ4.5mmの鋼板を敷き詰めて水平構面を構成した。
環境を注意深く観察しつつも露わに応答するのを避けた結果出来上がった、天井が高くガラス張りの、がらんどうな土間を持つこの住宅は、環境と住人の持つ様式も年代もさまざまな物達と建築が混じり合い、眺望に優れたこの敷地ならではの、風景との対等な関わり方を見つけることが出来たのではないだろうか。
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タト