安定した室内気候をさがして
兵庫県北部に建つ夫婦と子ども二人の為の住宅だ。
敷地は曇天の多い山間部で、そこに明るく安定した室内気候をつくりだしたいと考えた。出来上がった住宅は高さ1800mmの灰色の基壇上に3つの家型の小屋が並んでいる。
まず、斜面地を造成した敷地だったので良好な地盤まで掘り下げたいと考えたこと、基礎蓄熱型床暖房を採用しており、地熱を利用して更に安定した性能を発揮させたいこと等の理由から、1階床面を地盤面から760mm掘り下げた。また、これにより屋上と地面が近くなり敷地全体を庭のように使えるのではないかと考えた。敷地は住宅地の入り隅に位置する為、屋上面を下げることで空や山などの周辺環境への抜けをつくりだすことは、このあたらしい住宅地にとっても良いことのように思えた。
立体化した中庭
その基壇の上に3つの家型の小屋を並べ、それぞれ予備室、サニタリー、ライトルームとした。サニタリーとライトルームは下階に対しての採光や通風を担っている。ある意味では立体化した中庭とも言える。特にライトルームは冬期には集熱装置として働き、夏期は電動で一斉に開閉できる合計5カ所のサッシにより風を捉えて速やかに熱を排出する。実は外部から住居のように見える家型は常に滞在するようなスペースではなく、その下の基壇に生活が拡がっていることになる。結果として近隣の目線からは遠ざかり、庭や、外で遊ぶ子どもの目線と近づくことになって周辺環境から奇妙な近さと遠さをつくり出せたように思う。
敷地は田畑が住宅地に置き換わっていく境界に位置する真新しい住宅地で、真新しい商品化住宅が建ち並ぶことが予想された。そこにこういった波板などの農村地帯のバナキュラーな素材を利用した農作業小屋のようなスケールを持った住宅を建てることにより、既存の田園風景と新たな住宅群の両者を繋ぐ存在となることを期待した。
ものたちの自由な振る舞いを
室内にはいくつか収納やトイレなど箱状のボリュームが必要だったので、梱包用の箱のように仕立てた。また、屋上の手摺りについて、防水層を痛めない固定方法を考えているうちにベンチと手摺りが交じり合った。吹き抜けの開口には洗面台が掛かり、手摺りを兼ねている。ライトルームはほとんど温室そのものだ。ここでは様々な要素が参照要素として誤用され、手摺やトップライトなどの建築的な要素は慣習的な事物と混ぜ合わされ、二重の意味を帯びている。
そのようにした訳はこれらの操作によって、その場にある全てのものがブリコラージュ的にたまたまそのように使われているに過ぎないという、ある種の自由さを室内風景につくりだしたかったからだ。それにより住人の持ち込む、多様なものたちも自由に振る舞うことが出来るのではないかと期待している。
材料について
基壇上に建ち並ぶ3つの小屋のうちサニタリーとライトルームは日射を取り込む為、ポリカーボネイト波板を外壁に採用している。波板と軸組の間には温室の吸水・吸湿・保温用シートを挟み、両者とも内壁側はポリカーボネイト複層板で断熱層を形成した。サニタリー棟には更に壁天井内にペットボトルを再生した透光性の断熱材を充填している。1階と2階の距離を近づける為に、両者を繋ぐ開口部付近は50mm角鋼管を敷き並べて床材と天井材でサンドイッチし、合計80mmとした。猛暑時や厳冬期夜間には開口部をシェードで塞ぐことを計画している。
基壇部の外壁はフレキシブルボード8mm厚の下見板張り。下地を加工して浮かすように取付け、端部の水切れを図ると同時に陰影をつくり出した。RC部は外断熱とし、外周には雨水の排出や断熱を考えて割栗石を敷きつめている。
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タト