北野町の住居2について、設計意図をまとめている。なかなか上手く説明できないのだが、こういったことではなかったろうか。
敷地は神戸市街の北にある異人館街の端にある。北側の狭い道は敷地から2mほど上にあり、その向こうには山が迫っている。南と西をワンルームマンションに囲まれた敷地はほとんど窪地のような印象だった。三年ほど前にこの敷地の直ぐ上に住宅(北野町の住居1)を設計したのだが、それをクライアントが気に入ってこの敷地を購入したのだ。
クライアントの要望は神戸を一望できることで、その為には南側のワンルームマンションの屋根を越える必要がある。そこで適合判定に廻らないギリギリの9mに軒高を設定し、1階レベルを北側道路にあわせて、地下1階地上3階とすることにした。歪な形の敷地から道路斜線を巧妙に避けうる平面を探し出すと平行四辺形となったのだが、これをそのまま立ち上げると北側道路に対して巨大すぎ、北側道路の環境を損なうため、1階より上は2棟に分割し、その隙間にはガラスを嵌めて階段室とした。また、施主は60代の夫婦であったので、なるべく上下運動が少ないよう、主な生活空間を2・3階とし、エレベータも用意することにしたのだが、ここで問題が起こった。3階建用のエレベータを納めようとすると地階の天井高がとれない。そこで1階の床を傾けてエレベータを納めつつ地階の天井高も確保することにした。
と、ここまでがひとつの建築案の説明なのだが、この住宅はそういった説明では了解しきれない面があり、ある意味では混乱しているとも言える。
いったいどうしてそういった設計になっているのか。
絵の中の地面と同じように傾いた階段室の床
一つのアイデアやルールで全ての決定が貫かれた、完結した空間には感心することも多いのだが、一方である種の貧困を感じることもある。ある美学によって閉じられた世界が息苦しく感じられるのだ。この住宅では、そうではない方向を探ってみることにした。たとえば2棟の小さな建物を購入した幾人かの住人が、その2棟を繋いで改装し続けているような自由な在り方は出来ないだろうか。とはいえ、一人で設計していると、どうしても発想は収斂されていくし、そう訓練されてきたように思う。そこで、設計に時差を取り入れてみることにした。実はこの住宅には全く異なる案が3つある。設計時期も半年ごと間が空いており、考えていたことも異なるのだが、それらの案をシャッフルし強引に織り交ぜてみた。
たとえば、北側の環境に配慮して2棟に分けることにした外観は、南側に回り込んでみると1つのものとして扱われ、太陽光によってHPシェル状に削り取られたかのような、その造形によって各階に光を届けている。また西側の棟を貫くトンネル状のサニタリー空間は、もう一つの案から移植され、角度をもった壁の一面を鏡にすることにより、2階レベルで唯一恵まれている北側の景色を室内に流れ込ませている。
そうやって一つの住宅にさまざまなアイデアが重ね書きされているのだ。この住宅は外から眺めてみると左右2棟に分かれて見える。だが実際には上下で2つに分かれ、さらには3つの時期の異なる建築案が重ね合わされている。
初期案
建物に挟まれた路地のような階段室、そこに掛かる大きな絵の中の地面と同じように傾いた床。鏡に映り込み、まるで食卓のような洗面台。蛍光色に塗られ奥行きの失われた壁面と、その照り返しに染め上げられた空間。虚像の空間に掛かる脚立のような梯子。階段と交配された家具。そういった全てによって認識は揺らぎ、裏切られ、了解され消費されることから建物を遠ざける。その結果、現実感のピントはところどころでずらされ、浮遊した認識のもと、多幸感に満ちた風景が立ち現れたように思う。
10年ほど前に宅録したひどい音質のローファイな音源でデビューしたRocket or Chiritoriは、当時17歳の高校生の女の子の一人ユニットで、奇跡的な瑞々しさが宿っていて大好きだった。Vacations というEPに入っていたShs-10という曲が、なぜだか特に気に入って今でも良く掛かる。録音を始めるラジカセのガシャッという音からはじまる2分15秒の短いインスト。なにかの始まりのような、おしまいのような、予感と余韻の音楽。
確か大学で建築を勉強する為に活動を休止してしまったのだが、最近活動を再開して、5月6日に旧新宿区立淀橋第三小学校で開催される廃校フェスに参加するらしい。見に行きたいのだけれど、予定は空きそうにない。
そういえば、建築は止めてしまったのかなと、少し調べてみたら中村拓志さんのところで広報をしているみたいだ。建築事務所としては、広報がいるって状況はなかなか素晴らしいけれど、彼女の作り出す空間も一度体験してみたかった。
見積をとっていた二子新地の住居は、やはりというべきか、予定価格を大幅にオーバーしていたので,速やかに減額案の作成をすることに。
先日やっと修正し終わったのだが、屋上に上るのを諦めてもらったり色々と要求を整理してスリムにしていった結果、以前より良い案になったように感じる。修正案が出来上がるまでは連日skypeで案を協議していたのだが、施主は大学時代の友人で建築にも精通しており、現在はゲーム会社でグラフィックを担当している為、彼がCGでどんどんモデリングしていく中、僕が施主のように口出す主客転倒したやり方が新鮮だった。
将来的にはGOOGLE スケッチアップで施主と構造設計者と3者でやりあいながら設計を進めるような事態が本格的にはじまるかもしれない。それは建築にある種の可能性を拓くだろうか。
これで終わり。そろそろトップライト上にゴーヤを育てる準備を始めなければ。
Photographed by Satoshi Shigeta/ Nacasa & Partners.
昨日に引き続き竣工写真を。
まずは外観(夜景)
部分を拡大
収納庫
Photographed by Satoshi Shigeta/ Nacasa & Partners.
早速竣工写真が上がってきましたので、一部を公開させていただきます。
まずは外観から
Photographed by Satoshi Shigeta/ Nacasa & Partners.
先週はSK社がJT用に塩屋町の住居の撮影に。
竣工してから3年近く経つのだが、竣工時の空気は損なわれないままでひと安心。変わってゆくこと自体は好ましいことなのだけれど、取材の意図と違っていた場合、無駄足を踏ませることになってしまう。
その後金曜日に北野町の住居2の撮影。今回は以前取材で北野町の住居1を撮影してもらった繁田諭さんにお願いすることに。いつもと違った撮影で新鮮な気分。
土曜は友人の結婚式。青木淳事務所員と山本理顕事務所OGの結婚式で、それぞれの事務所員が大挙して神戸に。2次会はSALLOWで。その頃グッゲンハイム邸では豊富町の住居の施主であるMさんのバンドとテニスコーツのライブが行われていて、あとで聴くとお嬢さんがステージに上がったり、とても良さそうなライブだったらしく聴けずに残念無念。
日曜は結婚されたお二人と、花田佳明先生達が北野町の住居2に来訪。
いろいろとツッコミを受けつつ楽しい時間を過ごし、最後に北野町の住居1にも立ち寄って番犬(にはならない)さみしがり屋のベスと遊ぶ。
北野町の住居2は20カット以上を費やしても撮りきれない部分のある、さまざまなシーンを含んだ建築で、その為に全体の意図はいささか不明瞭になっているのだが(というかそれこそが意図なのだが)そういった在り方については自分でも疑問を持ちつつやっているのが正直なところ。撮っても撮っても終わらない撮影に付き合ってくださった繁田さん。ありがとうございました。
x Close
タト